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補助金の「主役」は経済産業省ではない

「補助金」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、ものづくり補助金やIT導入補助金——つまり経済産業省・中小企業庁系の設備投資支援でしょう。ところが政府が公開している交付実績42万件を集計すると、まったく違う姿が現れます。件数の約半分は農林水産省。そして金額の約9割は、わずか129の法人に流れていました。

この分析の要点

  • 交付件数の46.8%が農林水産省、次いで厚生労働省26.1%。 経済産業省はわずか1.8%(中小企業庁を足しても11.1%)
  • 交付金額は極端に集中。上位0.1%(129法人)が金額の89.5%を占め、 下位90%(11.6万法人)は合計1.9%しかない
  • その129法人の正体は事業会社ではなく健保協会・基金・事務局法人・大学。 つまり金額ランキングは「儲かっている企業」ではなく資金の通り道を映している
  • 1件あたりの交付額は中央値165万円 / 平均1.3億円(81倍)。 受給法人の59.8%は1回だけの受給で終わっている

分析の方法

  • データ: 経済産業省 gBizINFO の「補助金情報」一括ダウンロード(2026年7月時点)。 全54.6万件のうち、地方公共団体向けの交付金12.5万件(法人番号が総務省採番の自治体)を除外した42.1万件を集計対象とした
  • 対象範囲: 受給法人12.9万法人、補助金・交付金の名称13,388種、交付金額の合計は約56兆円。 大半が2018〜2024年の交付レコード
  • 集計軸: 発行元(府省)別の件数、補助金名別の件数、法人単位に合計した金額の分位別シェア、 1件あたり金額の中央値・平均、法人ごとの受給回数

結果1: 件数の半分は「農業の交付金」

発行元の府省別に交付件数を数えると、農林水産省が46.8%(19.7万件)で圧倒的な首位。 厚生労働省26.1%、文部科学省13.0%が続き、中小企業庁9.3%、経済産業省はわずか1.8%です。

府省別の補助金交付件数シェア。農林水産省46.8%、厚生労働省26.1%、文部科学省13.0%、中小企業庁9.3%、経済産業省1.8%
交付件数の府省別シェア(自治体向け交付金を除く42万件)。「補助金=経産省」というイメージとは大きく異なる。

個別の名称で見ると、最も件数が多いのは「水田活用直接支払交付金」で8.0万件(全体の19.1%)。 2位「畑作物の直接支払交付金」3.3万件、3位「水田活用の直接支払交付金」2.6万件と、 上位は農業経営への直接支払いが並びます。次に多いのが コロナ関連の医療機関向け補助金(2.5万件)、そして働き方改革推進支援助成金(9,069件)。 いわゆる「設備投資の補助金」は、件数ベースでは主役ではありません。

これは統計の偏りではなく、制度の性質の違いです。農業の直接支払いは毎年・全国の農業者に継続的に交付されるため件数が積み上がります。 一方、ものづくり補助金のような公募型は年に数回・採択者のみなので件数が伸びません。

結果2: 金額の89.5%は129法人に集中している

次に金額を見ます。法人ごとに交付額を合計して並べると、分布は驚くほど偏っていました。上位0.1%にあたる129法人だけで、総額の89.5%。 残る約12.9万法人が分け合っているのは10.5%で、 下位90%(11.6万法人)の取り分はわずか1.9%です。

交付金額の集中度。上位0.1%(129法人)が89.5%、0.1〜1%が6.3%、1〜10%が2.3%、下位90%が1.9%
法人を交付金額の多い順に並べたときの、帯ごとの金額シェア。極端な集中が見られる。

ただしこれを「一部の大企業が補助金を独占している」と読むのは誤りです。 金額上位の顔ぶれを見ると、全国健康保険協会(約6.3兆円)、日本私立学校振興・共済事業団(約2.8兆円)、 中小企業基盤整備機構(約2.6兆円)、NEDO(約2.2兆円)、日本学術振興会(約1.8兆円)といった公的機関・基金・事務局法人が並びます。 広告会社やキャッシュレス推進団体が数兆円規模で並ぶのも、 国の事業の執行を受託した事務局としての受領だからです。

つまり交付実績データの金額は、最終的に誰の手元に届いたかではなく国から最初に誰へ渡されたかを記録しています。 「補助金交付額ランキング」を企業の実力や優遇の指標として読んではいけない、というのが このデータを扱うときの最重要の注意点です。件数上位も国立病院機構601件、国立高専機構483件、 共済組合、国立大学と公的セクターが並びます。

結果3: 事業者にとっての「現実的な金額」は165万円

では、実際の1件はいくらなのか。交付レコード単位で見ると中央値は165万円。一方平均は1.3億円で、中央値の81倍という強い歪みがあります。 巨額の基金・事務局レコードが平均を引き上げるためで、補助金の「相場感」を平均で語るのは不適切です。 実感に近いのは中央値のほうで、数十万〜数百万円のレンジが交付実績のボリュームゾーンです。

リピート状況も示唆的です。受給法人12.9万のうち59.8%は交付実績が1回だけ。 残る40.2%の「複数回組」が、全交付件数の81.6%を占めています。 補助金は「一度使って終わる企業」と「継続的に使い続ける企業」にはっきり二分されており、 後者が件数の大半を生んでいるということです。

実務的な示唆

  • 自社の所管省庁から探す。補助金の件数の主役は農水省・厚労省です。 農業・食品なら農林水産省、雇用・労働環境なら厚生労働省の制度を最初に見るほうが、 「補助金」で漠然と検索するより当たりが早い
  • 金額は中央値で考える。平均1.3億円という数字に引っぱられず、 現実的な規模(数十万〜数百万円)で資金計画を立てる
  • 1回で終わらせない。件数の8割超はリピーターによるもの。 一度申請の型を作った企業が繰り返し活用しているのが実態です

ホジョメトの交付実績の分析ページでは府省別・金額規模別の内訳を、業種別一覧では現在募集中の制度を業種から探せます。

注意点

  • gBizINFOの補助金情報はすべての補助金を網羅しているわけではありません。 府省が法人番号付きで提供したデータの集計であり、掲載のない制度もあります
  • 交付金額は基金・事務局への一括交付を含むため、企業への実質的な配分額とは一致しません
  • 本分析は情報提供を目的としたもので、特定の法人・制度を評価するものではありません

出典・データ

出典: gBizINFO(経済産業省)「補助金情報」。当サイトが独自に集計・分析しました。 地方公共団体向け交付金は除外。分析時点: 2026年7月。